東京高等裁判所 昭和30年(う)645号 判決
被告人 日向久
〔抄 録〕
控訴趣意第二について。
原判示事実は、原判決の挙示する証拠によつてこれを認めるに十分である。論旨は小林栄蔵は本件電線(被害物件)の管理者ではなく、該電線は管理者不明のまま、路傍に掃き寄せられた、紙屑等の中に無雑作に放置してあつたもので被害者の所持を離れた占有離脱物であると主張するが、原判決の援用する証拠によると、右物件は、長さ約七十米のコードから更に二米おきに長さ一米位のコードが出てその各先端に電燈用ソケットが附いている電線であつて、原判示場所附近街路上で縁日毎に営業する露店業者の代表者小林栄蔵の保管に属し、露店業者等が夜間照明のため共同に使用し露店閉店後は仮設電柱から取り外し、輪巻きにして、責任者が取り片附けるまで一時道端の随所に分散して置くのを常としていたものであつて、本件犯行当夜も平素のとおり使用後取外して道端においてあつたのを被告人が持ち去つたものであることが認め得られるので、保管者が右物件に対する所持を失つたものとは到底解し難く被告人も、右物件の性質、状態及び現場の状況から見て、これが保管者の支配内を離脱したものと考えたとは認められない。被告人の司法警察員に対する供述調書及び同弁解録取書中、該電線が道路上に長く延びていた旨の供述記載は措信し得ず、その他記録によるもこの認定を覆すに足る証拠を見出し難い。されば被告人の所為が遺失物横領罪に該当しないことは明らかであり、原判決がこれを小林栄蔵管理の電線を窃取したものと認めたのは正当であつて、何等理由不備審理不尽乃至事実誤認の瑕疵はない。論旨は理由がない。